今回は、商業登記法の勉強法についてです。
商業登記法は、不動産登記法と同じく、午後の部の択一式試験と記述式試験で出題されます。択一式と記述式に分けてご紹介します。
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【択一式】商業登記法
【択一式】出題数と得点目安
商業登記法は、午後の部の択一式試験で、合計8問出題されます。
午後の部の択一試験の第28問から第35問が商業登記法の問題です。
商業登記法では、全8問中7問以上の得点を目指したいところです。
商業登記法は、会社法/商法と学習する範囲が被る部分も多く、会社法/商法を理解していれば、得点しやすい科目になります。
また、会社法/商法と学習範囲が被るので、それだけ同じ論点に多く触れることになります。商業登記法は、学習時間を確保して勉強を続ければ、必ず得点源にすることができます。
【択一式】商業登記法の出題範囲と出題傾向
商業登記法の出題テーマは、①商業登記総論、②株式会社の登記、③株式会社以外の登記に分かれます。
①商業登記総論では、商業登記の効力や申請人、添付書面や登録免許税など、商業登記全般を通して共通のルールについて出題されます。
②株式会社の登記では、設立、役員、株式、新株予約権、資本金、定款変更、解散/清算/会社継続、組織再編、本店/支店/支配人など、株式会社を構成する各規定について出題されます。
③株式会社以外の登記では、持分会社、特例有限会社、外国会社、個人商人、一般社団法人/一般財団法人について出題されます。
商業登記法の出題形式も他の科目と同じく、組み合せ問題が多く出題されます。組み合わせ問題とは、問題の肢ア~オまでのうちから、選択肢にある組み合わせのうちで正しい(又は誤っている)と思うものを選ぶ形式の問題です。選択肢には、例えば「1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 ウオ」といったような組み合わせが書かれています。
商業登記法は、不動産登記法と同じく、近年の問題は、長文化が顕著です。
例えば、平成30年度の第29問エでは、「当該設立が募集株式であり、設立に際して普通株式のほか株主総会において議決権を行使することができないものと定められた種類株式を発行する場合において、発起人が創立総会の目的である会社の広告方法の変更について提案をし、当該提案につき普通株式の設立時株主の全員が書面により同意の意思表示をしたときは、創立総会の決議があったものとみなされる場合に該当することを証する書面を添付して設立の登記申請をすることができる。」といった問題文になっています。
しかし、第32問の「解散の登記の日より後に生じた事由として登記の申請をすることができないものの組合せを選べ」という問題では、
- ア 募集新株予約権の発行による変更の登記
- イ 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めの設定による変更の登記
- ウ 定款に監査役の任期の定めがない場合における監査役の任期満了による退任の登記
- エ 資本金の額の減少による変更の登記
- オ 清算株式会社が吸収合併消滅株式会社となる吸収合併による変更の登記
といったように、短い選択肢で構成された問題も出題されています。このような問題を時間をかけずに瞬間的に判断することで、長文問題に時間をかけることが出来るようになります。
【択一式】試験までの商業登記法の勉強方法
まずは実体法である会社法/商法を理解する
手続法である商業登記法は、実体法である会社法/商法と密接に関連しています。それ故、会社法/商法の理解なしに商業登記法を理解することは難しいです。まずは、会社法/商法をしっかりと理解した上で、商業登記法の勉強をすることが、商業登記法を理解する近道です。
株式会社の登記をマスターする
商業登記法で一番重要な範囲は、株式会社の登記になります。
商業登記法は、商業登記総論で商業登記の全体像を掴んだあと、株式会社の登記を学習することになります。もし総論の学習をしている時に分かりにくいところがあっても、株式会社の登記は商業登記法の各論のようなものなので、株式会社の登記を学習しているうちに分かるようになります。
株式会社の登記がマスター出来れば、その他の登記(持分会社、特例有限会社、外国会社、個人商人、一般社団法人/一般財団法人の登記)の範囲の理解も早くなります。
テキストと過去問を往復する
商業登記法は手続法という特性の故、不動産登記法の学習と同じく、ある程度割り切って覚えていくことが必要な科目になります。
勿論、丸暗記ではなく理解して覚えていくことが大事なことに変わりはありませんが、テキストでインプットが程々の状態でも、過去問を解いて覚えていくといった学習方法も有効です。テキストと過去問を往復することで、自然と記憶に定着していきます。
商業登記法は過去問の学習が重要
商業登記法は、過去問で問われた内容が、形を変えて繰り返し出題される傾向が強い科目です。平成で出題された過去問を完璧に解けるようにしておくことで、8割~9割は確実に得点できるはずです。
【記述式】商業登記法
【記述式】出題数と得点目安
司法書士試験の記述式試験は、午後の部で不動産登記法1問、商業登記法1問の計2問出題されます。記述式試験の配点は、合計70点です。
記述式試験では、まずは基準点を超えることを目標に勉強することが必要です。
【直近の記述式試験の基準点の推移】
出題年度 | 基準点(合計70点満点) |
令和3年度 | |
令和2年度 | 32.0 |
平成31年度(令和1年) | 32.5 |
平成30年度 | 37.0 |
平成29年度 | 34.0 |
平成28年度 | 30.5 |
平成27年度 | 36.5 |
平成26年度 | 37.5 |
直近では、平成26年度が一番高く37.5点、平成28年度が一番低く30.5点となっています。一番高い年でも53%、低い年だと43%の得点率で基準点を超えることが出来ます。
合格者の多くは択一式試験で基準点+上乗せ点を稼いで、記述式試験では基準点を超えることで合格されています。
商業登記法の記述式試験は、不動産登記法のように枠ズレをして大幅減点になるようなことはありませんが、時系列の把握を間違えてしまうと、第1欄で申請すべき登記事由を第2欄で申請してしまい減点になってしまう可能性があります。
【記述式】商業登記法の出題範囲と出題傾向
直近の出題論点は、以下になります。
- 会計監査人の変更
- 株主名簿管理人の設置
- 新株予約権の発行
- 株式の譲渡制限に関する規定の変更
- 取締役、代表取締役及び監査役の変更
- 新株予約権の一部消滅
- 取締役及び代表取締役の変更
- 取締役会設置会社の定め廃止
- 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めの設定
- 募集株式の発行
- 剰余金の資本組入れ
- 代表取締役及び監査役の変更
- 発行可能株式総数の変更
- 株式の併合
- 発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更
- 株式分割
- 発行可能株式総数の変更
- 吸収合併による変更
- 取締役及び代表取締役の変更
- 取締役、代表取締役、監査役および会計監査人の変更
- 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めの廃止
- 会計監査人設置会社の定めの設定
- 会社継続
- 取締役、代表取締役及び監査役の変更
- 支配人選任
- 取締役会設置会社の定めの設定
- 監査役会設置会社の定めの設定
- 株式無償割当て
- 取締役及び代表取締役の変更
- 支配人の代理権消滅
- 本店移転
- 発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更
- 取締役、代表取締役及び監査役の変更
- 支配人を置いた営業所移転
- 取締役の変更
- 清算人及び代表清算人の就任
- 支店廃止
- 解散
- 取締役、監査等委員である取締役、代表取締役、監査役及び会計監査人の変更
- 重要な業務執行の決定の取締役への委任についての定款の定めの設定
- 監査役設置会社の定めの廃止
- 監査等委員会設置会社の定めの廃止
- 監査等委員会設置会社の定めの設定
- 新株予約権の行使
- 新株予約権の行使期間満了
- 吸収分割による変更
- 取締役及び監査役の変更
- 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めの廃止
- 発行可能株式総数の変更
- 取締役、代表取締役及び監査役の変更
- 取締役会設置会社の定めの設定
- 監査役設置会社の定めの設定
- 株式交換
- 発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更
- 発行済株式の総数並びに種類及び数の変更
- 株式の譲渡制限に関する規定の設定
- 取締役、代表取締役及び監査役の変更
- 取締役会設置会社の定めの廃止
- 監査役設置会社の定めの廃止
- 本店移転
- 組織変更による設立
商業登記法は例年、第1欄と第2欄で登記すべき申請内容を解答し、第3欄で登記できない事項を問う形式で出題されています。(※平成30年度と平成27年度では第4欄があり、平成26年度は第3欄がないといったように、年度によって若干の違いはあります。)
商業登記法は、数年前までは第1欄をしっかりと解答し、第2欄はプラスαの得点を稼ぐといった方針で臨むことを奨める学習指導校もありましたが、近年では、第1欄と第2欄の難易度や記載量に差がなく、第1欄・第2欄ともに得点できるように解答することが求められています。
【記述式】試験までの記述式の勉強方法
まずは択一式の知識を身に着ける
商業登記法の記述式試験は、択一式の知識がないと解答することができません。まずは択一式の知識を身に着けてから、記述式試験の勉強をする必要があります。
択一式で設立の学習をしたら、設立に関する雛形を覚え、記述式の問題を解くといったように、①あるテーマの択一式の学習 → ② ①の範囲の雛形を覚える → ③問題を解くといった順で学習するのが良いと思います。
択一式の全範囲の勉強を終えてから雛形を覚えたり、記述式の問題を解くのは大変なので、択一式であるテーマが終わったら、その範囲の記述式の勉強に取り組むと良いと思います。
基本の雛形は完璧に覚える
商業登記法の記述式試験の解答をするには、雛形を覚えていることが前提になります。
雛形とは、申請内容の基本型のことをいいます。例えば、取締役の就任(取締役会設置会社の場合)の登記であれば、以下のようなものになります。
登記の事由 | 取締役の変更 |
---|---|
登記事項 | 令和3年9月27日取締役A就任 |
登録免許税 | 金1万円(資本金の額が1億円以下の場合) |
添付書類 | 株主総会議事録 1通
株主の氏名又は名称及び住所、議決権数を証する書面 1通 就任承諾書 就任承諾書は株主総会議事録の記載を援用する 本人確認証明書 1通 委任状 1通 |
私は『ケータイ司法書士のひな形集』を使っていました。商業登記法の頻出テーマである「株式・新株予約権」と「機関・役員等」の雛形が多いです。まずは「株式・新株予約権」と「機関・役員等」の雛形を完璧にマスターすることから始めましょう。
おすすめの雛形集と記述式問題集
記述式の商業登記法の勉強は、①択一式の勉強をし、②雛形を覚え、③問題を解くという順番ですることは先に述べました。
雛形集は、私は『ケータイ司法書士のひな形集』を使っていましたが、私の周りでは『司法書士 山本浩司のautoma system 試験に出るひながた集 商業登記法 第3版』や『司法書士試験 雛形コレクション300 商業登記法』を使っている方が多かったです。
記述式の問題集は、『司法書士 山本浩司のautoma system 商業登記法 記述式』をおすすめします。
商業登記法の勉強法を紹介している予備校の参考ページ
ここまで、私の考える司法書士試験における商業登記法の勉強法をご紹介しました。
各司法書士試験予備校のサイトでも、商業登記法に関する勉強法を紹介しているページがありましたので、いくつかご紹介します。参考にしてみてくださいね。
・アガルートアカデミー:「【司法書士試験】商業登記法の勉強法」
・スタディング:「司法書士試験「会社法・商法・商業登記法」の攻略法」
・資格スクエア:「二年目の最初の二か月は、商業登記法の学習から。」「商業登記申請書の勉強は、商法・会社法及び商業登記法の学習と並行して行うと効率的。」
司法書士 山本浩司のautoma system 商業登記法 記述式 第7版 (W(WASEDA)セミナー 司法書士)