今回は、不動産登記法の勉強法についてです。
不動産登記法は、午後の部の択一試験と記述式試験で出題されます。択一式と記述式に分けてご紹介します。
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【択一式】不動産登記法
【択一式】出題数と得点目安
不動産登記法は、午後の部の択一式試験で、合計16問出題されます。
不動産登記法は、大きく①総論と、②各論に分かれます。
①総論では、不動産登記手続き全般に共通する決まりについて規定されています。例えば、「添付情報とは何か」「電子申請とは何か」といったように、所有権の登記でも根抵当権の登記でも必要なことを学びます。
②各論では、権利ごと(ex.所有権、抵当権、根抵当権、etc.)の具体的な登記手続きについて規定されています。
不動産登記法では、全体の9割前後(14~15問)の得点を目指したいところです。不動産登記法は、普段の生活には馴染みが薄いため、学習初期の頃にはイメージがつかみにくい科目かもしれません。
しかし、不動産登記法は不動産の登記手続について定めた”手続法”なので、民法のように深い理解が必要な科目ではありません。決められた手続きを愚直に覚えていけば、必ず高得点を取ることが出来るようになります。
【択一式】不動産登記法の出題範囲と出題傾向
不動産登記法は、条文や判例の他、不動産登記令や不動産登記規則、通達や回答といった先例についても出題されます。
問題形式は、組み合わせ問題、単純正誤問題、個数問題が出題されます(年度によって単純正誤問題や個数問題が出題されない年もあります)。
組み合わせ問題とは、問題の肢ア~オまでのうちから、選択肢にある組み合わせのうちで正しい(又は誤っている)と思うものを選ぶ形式の問題です。選択肢には、例えば「1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 ウオ」といったような組み合わせが書かれています。
単純正誤問題とは、問題の肢ア~オまでのうち、正しい(又は誤っている)と思うものを一つだけ選ぶ問題です。組み合わせの消去法で解答が出せないため、組み合わせ問題よりは難易度が上がります。
個数問題とは、問題の肢ア~オまでのうち、正しい(又は誤っている)と思うものを複数選ぶ問題です。解答パターンが幾重にもなり、難易度は一番高くなります。
近年、不動産登記法の問題は、長文化が顕著です。
例えば、平成30年度の第21問ウでは、「Aの死亡後にB,C及びDから甲土地を買い受けたEが,B,C及びDからEへの売買を原因とする所有権の移転の登記手続きを命ずる確定判決に基づき,代位によって,AからB,C及びDへの相続を登記原因とする所有権の移転の登記の申請をする場合において、当該確定判決の理由中にAの相続人がB, C,及びDのみである旨の確定がされているときは,相続があったことを証する情報として当該確定判決の正本を提供すれば足りる。」といった問題文になっています。
不動産登記法を得点源にするには、正確な知識に加えて、問題文を読むスピードや解答を出すまでのスピードも必要になります。
【択一式】試験までの不動産登記法の勉強方法
まずは実体法である民法を理解する
手続法である不動産登記法は、実体法である民法と密接に関連しています。それ故、民法の理解なしに不動産登記法を理解することは難しいです。まずは、民法をしっかりと理解した上で、不動産登記法の勉強をすることが、不動産登記法を理解する近道です。
民法を理解すれば、「実体はこうなのだから、手続きはこうなる」といったように、一連の流れで理解を深めることができます。
「所有権」「抵当権」「根抵当権」を完璧にする
不動産登記法で特に重要な権利は「所有権」「抵当権」「根抵当権」です。これら3つの権利を完璧にすることで、他の権利、例えば「質権」や「先取特権」といった担保物権、「地上権」のような用益権も、理解しやすくなります。
不動産登記法は、始めに①総論、その後に②各論を学ぶことになりますが、②各論を学ばないと、①総論の分野の具体的なイメージが出来ず、始めは理解しずらいかもしれません。しかし、②各論を学習した後に、再び①総論を復習すると、イメージが沸き①総論の分野も理解が深まります。
「仮登記」や「信託登記」は暗記もあり(?!)
不動産登記法の中には「仮登記」や「信託登記」「処分の制限の登記」等、ひとことで言うと”ややこしい”内容があります。ただ、これらは「所有権」や「抵当権・根抵当権等の担保物権」「用益権」に比べて学習範囲が狭く、出題数も少ないです。
どのような勉強でも、丸暗記より理解して覚えることが大事ですが、どうしても理解して覚えることが出来なければ、「仮登記」や「信託登記」等のマイナーな内容は暗記に比重を置いた学習をしても良いと思います。
内容は難しいですが、本試験で問われる内容は、繰り返し同じ論点が出題されることが多く、過去問をこなすことで対応できる場合があります。
テキスト⇔過去問の往復
より深く、本質的な理解が必要な民法は、テキストでインプットをある程度済ませてから過去問を解くことをおすすめしました。
これに対して、不動産登記法は手続法という特性の故、ある程度割り切って覚えていくことが必要な科目になります(勿論、丸暗記ではなく理解して覚えていくことが大事なことに変わりはありません)。テキストでインプットが程々の状態でも、過去問を解いて覚えていくといった学習方法も有効だと思います。テキストと過去問を往復することで、自然と頭に入っていくと思います。
不動産登記法は過去問の学習が重要
不動産登記法は、過去問で問われた内容が、形を変えて繰り返し出題される傾向が強い科目です。過去問で未出の内容が出題されることもありますが、他の選択肢の内容を知っていれば消去法で解けることもあります。
平成で出題された過去問を完璧に解けるようにしておくことで、8割~9割は確実に得点できるはずです。
【記述式】不動産登記法
【記述式】出題数と得点目安
司法書士試験の記述式試験は、午後の部で不動産登記法1問、商業登記法1問の計2問出題されます。記述式試験の配点は、合計70点です。
記述式試験では、まずは基準点を超えることを目標に勉強することが必要です。
【直近の記述式試験の基準点の推移】
出題年度 | 基準点(合計70点満点) |
令和3年度 | |
令和2年度 | 32.0 |
平成31年度(令和1年) | 32.5 |
平成30年度 | 37.0 |
平成29年度 | 34.0 |
平成28年度 | 30.5 |
平成27年度 | 36.5 |
平成26年度 | 37.5 |
直近では、平成26年度が一番高く37.5点、平成28年度が一番低く30.5点となっています。一番高い年でも53%、低い年だと43%の得点率で基準点を超えることが出来ます。
合格者の多くは択一式試験で基準点+上乗せ点を稼いで、記述式試験では基準点を超えることで合格されています。記述式試験では、枠ズレ(※)をせず、基本をしっかりと身に着けて、皆が正解できるところを確実に正解していくことが合格へのカギになります。
※枠ズレとは、申請件数を間違えたり、申請順序を間違えたりすることで、解答欄に本来書くべき申請内容を間違って書くことを言います。申請内容自体は合っていても、本来書くべき解答欄に書かなければ減点対象になります(枠ズレしても点がつくという話もありますが、真相は分かりません💦)。
【記述式】不動産登記法の出題範囲と出題傾向
直近年の出題論点は、以下になります。
- 所有権登記名義人住所、名称変更
- 所有権移転
- 根抵当権変更(債務者の本店移転・商号変更)
- 根抵当権変更(会社分割)
- 共同根抵当権分割譲渡
- 1番(あ)共同根抵当権変更
- 1番(い)共同根抵当権変更
- 錯誤による更正
- 根抵当権設定
- 所有権登記名義人住所変更
- 所有権保存
- 相続による所有権移転
- 相続による共有持分移転
- 抵当権抹消
- 根抵当権登記名義人住所変更
- 根抵当権の極度額の変更
- 売買による所有権移転
- 相続による所有権移転
- 共有持分移転
- 共有持分移転
- 地上権設定
- ○番地上権根抵当権設定
- 所有権登記名義人の住所変更
- 所有権更正
- 抵当権の相続による債務者変更
- 抵当権の債務者の住所変更
- 抵当権の債務引受による債務者変更
- 賃借権設定
- 賃借権の根抵当権に優先する同意の登記
- 所有権登記名義人の住所変更
- 財産分与による共有持分移転
- 所有権登記名義人の住所変更
- 抵当権の合併移転
- 抵当権及び根抵当権の抹消
- 根抵当権の抹消
- 根抵当権の一部譲渡
- 根抵当権の債権の範囲と債務者変更
- 共同根抵当権の追加設定
- 相続による所有権移転
- 根抵当権の相続による債務者変更
- 根抵当権の一部移転
- 共同根抵当権の極度額の変更
- 共同根抵当権の全部譲渡
- 共同根抵当権の債権の範囲と債務者変更
- 根抵当権の登記名義人の住所及び名称変更
- 根抵当権の元本確定
- 根抵当権の抹消
- 抵当権及び信託登記の抹消
- 共有持分移転
- 共有持分移転
- (事業用借地権設定)
近年、不動産登記法の記述式試験の解答記載量は増加傾向にあり、平成28年度は特に記載量が多かったです。このまま増加傾向が続くかと思いましたが、平成30年度は申請件数が5件となり、記載量は減少しました。そしてまた令和3年度には申請件数が7件となり、増加傾向になりました。
今後はどのような傾向になるのかは分かりませんが、限られた時間内で正確に解答していくことが求められることに変わりはありません。
「名変/住変」「所有権」「抵当権」「根抵当権」に関する登記は、頻出事項です。また近年では「地上権」や「賃借権」といった用益権等も出題されています。
【記述式】試験までの記述式の勉強方法
まずは択一式の知識を身に着ける
不動産登記法の記述式試験は、択一式の知識がないと解答することができません。まずは択一式の知識を身に着けてから、記述式試験の勉強をする必要があります。
択一式で所有権の学習をしたら、所有権に関する雛形を覚え、記述式の問題を解くといったように、①あるテーマの択一式の学習 → ② ①の範囲の雛形を覚える → ③問題を解くといった順で学習するのが良いと思います。
択一式の全範囲の勉強を終えてから雛形を覚えたり、記述式の問題を解くのは大変なので、択一式であるテーマが終わったら、その範囲の記述式の勉強に取り組むと良いと思います。
基本の雛形は完璧に覚える
不動産登記法の記述式試験の解答をするには、雛形を覚えていることが前提になります。
雛形とは、申請内容の基本型のことをいいます。例えば、所有権保存の登記であれば、以下のようなものになります。
登記の目的 所有権保存
所 有 者 A
添 付 情 報 住所証明情報 代理権限証明情報
令和元年7月8日法74条1項1号申請
課 税 価 格 金1,000万円
登録免許税 金4万円
私は『ケータイ司法書士のひな形集』を使っていましたが、『ケータイ司法書士のひな形集』には基本の雛形が掲載されています。雛形を覚えるのは始めは大変に思いますが、1つ覚えると、それを基本にして似たような雛形を複数覚えることが出来るので、実際には覚えるべき雛形はそこまで多くはありません。基本の雛形だけは完璧に覚えておくようにしましょう。
おすすめの雛形集と記述式問題集
記述式の不動産登記法の勉強は、①択一式の勉強をし、②雛形を覚え、③問題を解くという順番ですることは先に述べました。
雛形集は、私は『ケータイ司法書士のひな形集』を使っていましたが、私の周りでは『司法書士 山本浩司のautoma system 試験に出るひながた集 不動産登記法』や『司法書士試験 雛形コレクション300 不動産登記法』を使っている方が多かったです。
記述式の問題集は、『司法書士 山本浩司のautoma system 不動産登記法 記述式』をおすすめします。
不動産登記法の勉強法を紹介している予備校の参考ページ
ここまで、私の考える司法書士試験における不動産登記法の勉強法をご紹介しました。
各司法書士試験予備校のサイトでも、不動産登記法に関する勉強法を紹介しているページがありましたので、いくつかご紹介します。参考にしてみてくださいね。
・資格の学校TAC/Wセミナー:「【司法書士】試験科目の内容を知ろう!【不動産登記法編】」
・アガルートアカデミー:「【司法書士試験】不動産登記法の勉強法 」
・スタディング:「司法書士試験「不動産登記法」の攻略法」
・資格スクエア:「民法と組み合わせて勉強を。手続法の構造がポイント。」
司法書士 山本浩司のautoma system 不動産登記法 記述式 第9版 (W(WASEDA)セミナー 司法書士)