司法書士の資格を持っている方の中には、行政書士の資格を持っている方が結構いらっしゃいます。
司法書士と行政書士は専門領域は違うものの、比較的親和性のある資格だとされています。
司法書士試験と行政書士試験、どっちを先に受けるか
先日、司法書士試験と行政書士試験の合格を目指す受験生から、「司法書士試験と行政書士試験をどっちから先に受けたらいいか?」という質問を受けました。
司法書士と行政書士のどっちになりたいのかを考えてみて、司法書士になりたいのなら司法書士試験を、行政書士になりたいのなら行政書士試験を先に受けるのが良いと思います。
なぜなら、本当になりたい方の試験勉強をする方が、モチベーションを維持できるからです。
司法書士試験も行政書士試験も、とても難しい資格試験です。なんとなく勉強しているだけでは合格できませんし、勉強を続けらません。どちらの試験も合格するためには、「合格して絶対に司法書士又は行政書士になる」という気持ちを持って勉強することが一番大切です。
まずは本当になりたい方の試験勉強をした後に、もう一方の試験の合格を目指すのが、ダブルライセンスへの近道だと思います。
司法書士受験生の行政書士試験の勉強法
司法書士試験の勉強をした後に、行政書士試験の勉強をして、効率よく行政書士試験に合格するためには、得点計画を立てることが大切です。
法令等
司法書士試験と行政書士試験では、「憲法」「民法」「会社法/商法」の3科目が試験科目が被っています。
行政書士試験は、例年300点満点中180点、全体の6割の得点が出来れば合格できます。憲法・民法・会社法/商法の配点は以下のようになっています。
科目 | 形式 | 出題数 | 配点 |
憲法 | 5肢択一式 | 5問 | 20点 |
多肢選択式 | 1問 | 8点 | |
民法 | 5肢択一式 | 9問 | 36点 |
記述式 | 2問 | 40点 | |
会社法/商法 | 5肢択一式 | 5問 | 20点 |
5肢択一式・多肢選択式・記述式合計124点(5肢択一式・多肢選択式合計84点) |
憲法・民法・会社法/商法の3科目で124点分の配点があります。行政書士試験の合格点は180点ですので、この3科目だけで合格点の7割弱の配点を占めることが分かります。
司法書士試験には民法の記述式の試験はありませんので、民法の記述式対策は必要です。しかし、この3科目においては、行政書士試験の択一式に特化した対策は不要だと考えます。なぜなら、司法書士試験の勉強で学習した範囲でカバーできるからです。
司法書士試験で学習した内容が頭に入っていれば、行政書士試験用に憲法・民法・会社法/商法のインプットの学習は不要です。5肢択一式・多肢選択式においては、行政書士試験の試験形式に慣れるため、過去問を数回解くことで対策としては十分だと思います。
※ただし、私の個人的な感触としては、憲法は、司法書士試験よりも行政書士試験の方が難しい印象があります。憲法の過去問は民法・会社法/商法よりも力を入れてやっておいた方が良いように思います。
行政書士試験の法令等の科目には、上記3科目の他に、「基礎法学」と「行政法」があります。配点は以下の通りです。
科目 | 形式 | 出題数 | 配点 |
基礎法学 | 5肢択一式 | 2問 | 8点 |
行政法 | 5肢択一式 | 19問 | 76点 |
多肢選択式 | 2問 | 16点 | |
記述式 | 1問 | 20点 | |
行政法合計112点 (5肢択一式・多肢選択式合計92点) |
行政法だけで112点の配点があります。法令等科目のインプットは、基礎法学よりも配点の高い行政法に重点を置いて学習をするのが効率的です。
行政法は、はじめはとっつきにくい科目かもしれませんが、学習を重ねれば必ず理解できるようになります。試験では基本的な問題が出題されることが多く、勉強していれば得点がしやすい科目でもあります。
ただし行政法は、行政書士試験の要ともいえる科目であり、学習ボリュームが他の科目と比べて多いです。全ての範囲をマスターできればいいのですが、時間等の制約で全範囲の学習が難しければ、一度テキストを通読して、自分がマスターしやすい範囲に的を絞って勉強することも、試験対策としてはアリだと思います。
行政法は、「行政法」という独立した法律があるわけではありません。いくつかの行政に関する法律が集まって組み立てられている法律です。そのため、例えば、行政法のうち、「行政手続法」と「行政不服審査法」と「行政事件訴訟法」に的を絞って勉強するということも可能になります。
基礎法学は、ざっとテキストを読んで過去問を数回解いておけば、あとは現場対応でなんとかなると思います。
司法書士受験生が行政書士試験を受験する際には、憲法・民法・会社法/商法の学習経験があるアドバンテージがあるため、法令等科目だけで合格点を目指すくらいの意気込みで学習するのが良いと思います。
憲法・民法・会社法/商法
→行政書士試験用にインプット学習はしない
→過去問を数回解く
→民法の記述式試験は市販本で対策する
行政法
→しっかりとインプット学習をする
ただ、全範囲をマスターするのが難しければ、的を絞った学習もアリ
一般知識
一般知識にも足切り点が設定されているため、しっかりと学習することが必要です。一般知識の配点は以下です。
科目 | 形式 | 出題数 | 配点 |
政治、経済、社会 | 5肢択一式 | 7問 | 28点 |
情報通信、個人情報保護 | 5肢択一式 | 4問 | 16点 |
文章理解 | 5肢択一式 | 3問 | 12点 |
一般知識 合計56点 |
一般知識の足切り点は24点(6問)です。法令等科目だけで合格点を目指す学習をするため、一般知識では、足切り点を下回らないための学習をすることが大切です。
まず、文章理解については、全く学習しませんでした。なぜなら、文章理解は一朝一夕の学習で飛躍的に効果がでるものではないので費用対効果が悪く、現場で時間をかければ解ける問題があると思っていたからです。
残りの「政治系科目」と「情報通信系科目」のうち、私は情報通信系科目の方が得意だったので、情報通信系科目の方に力を入れて学習しました。
得点計画では、文章理解と情報通信系科目で4~5問(16点~20点)取れると予想していました。政治系科目であと2~3問得点できれば足切りは回避できると思っていたので、政治系科目の学習はほどほどにしかしませんでした。
- 文章理解は現場対応
- 「政治系科目」と「情報通信系科目」のうち、得意な方を重点的に学習する
独学用の行政書士試験用テキストと問題集
ここまでで、司法書士受験生のための行政書士試験の得点計画と勉強法についてご紹介しました。
司法書士試験の学習内容がしっかり身についていれば、憲法・民法・会社法/商法についてはインプット学習が不要なため、予備校の入門講座的な全てが網羅された講義を受ける必要はありません。
そのため、行政書士試験の勉強は、概ね以下の順ですることになると思います。
- 「行政法・基礎法学・一般知識」を独学用のテキストか、予備校の単科講座でインプットする
- 過去問を解く(+予備校の演習講座を受講する)
- 模試を受ける
予備校を活用するか、独学でいくかは、ご自身の環境や学習スタイルに合わせて、自分に合った方を選択するので良いと思います。
最後に、ご参考までに有名どころの独学用の行政書士試験用のテキストと、それに対応する問題集をいくつかご紹介します。好みにもよりますが、テキストと問題集は、同じシリーズのものを使う方が、学習効率が上がると思います。
出版元 | 基本テキスト | 対応問題集 |
伊藤塾 | 『うかる! 行政書士 総合テキスト 2021年度版』 | 『うかる! 行政書士 総合問題集 2021年度版』 |
早稲田経営出版 | 『合格革命 行政書士 基本テキスト 2021年度』 | 『合格革命 行政書士 肢別過去問集 2021年度』 |
TAC | 『みんなが欲しかった! 行政書士の教科書 2021年度』 | 『みんなが欲しかった! 行政書士の問題集 2021年度』 |
LEC | 『2021年版出る順行政書士 合格基本書』 | 『2021年版出る順行政書士 ウォーク問 過去問題集 1 法令編』 |